タイムカマド(第1章4話)

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 「生意気なヤツだな」と、ネコはクモにカチンときていました。「あんな暗いところに隠れているブンザイで、オイラとはり合うどころか、説教までしてくるなんて」

 ネコはクモのことを、いっそ魔女にいいつけてやろうと思いましたが、魔女はいまだに外出から戻っていませんでした。それで、気にしないで流していこうとはするのですが、いわれた四つの文章とクモの発音がいつまでも頭にこびりついて離れません。

 「ひょっとすると、アイツ魔女より上手に英語が話せるんじゃないか?」

ネコはそう思うといたたまれなくなって、クモが今まで自分のスペースだったという階段脇を調べてみることにしました。

 ある朝、うまいことにクモはまだ眠っているようでした。ネコはおもむろに階段脇をひとまわりしてから、壁際にある背の高い柱時計にやってきました。どう考えても、そこにはめぼしいモノが何もなく、あのときクモが糸を揺らして示していたのは、この柱時計より他ありません。

 時計の黒い分針はカチカチとたくましい音をたてて進んでいました。その下に吊り下がった振り子が重そうに、右に左に揺れています。振り子の奥をのぞいてみると、ちょうど底のところに本が数冊、重ねて置いてありました。

「なるほど。アイツが『ホン、ホン』いってたわけだ。振り子に隠れて見えなかった」

 ネコがタイトルを見ていくと、すぐにそれは魔女の本だということがわかりました。なぜって『片道世界の地図』だとか『ローストしない料理』なんていう妙なものばかりでしたから。

 ネコはその中から『錬金術と金ののべ棒』という本を取り上げて、中を開けてみました。ホコリがたって、クシャミをすると赤い冊子がパラリと床に落ちてきます。

 どこからともなく風が吹き込み、冊子の表紙をめくってくれました。「『わかりすぎるbe動詞』ハンフリー・アレオパギタ著?」

 風がまた、次のページをめくりました。

   「『be動詞』は、たったの三つ、am, is そして are である」

 「ええっ? たったこれだけ? これってメモ帳だったのかな? それにしては、紙がひどいシミだらけだ」

 首をかしげているネコに、おかまいなしに風がまたページをめくりました。

   「諸君、ためらわずに次の文章を読み上げよ」

    I am Humphrey Areopagita.

    Your name is Bernard.

    We are in Pip Castle.¹

 ネコはこの時ほど、それまでの魔女の厳しいレッスンを、ありがたく思ったことはありませんでした。なぜって意味こそわからないけれど、アルファベットならかなり読めるようになっていたからです。

 またたくまに、次のページ。

   「『be動詞』の文章は、三つの部分から成り立っている。

    前のページの文章を、三つの部分に分けてみよ。

    ヒント:be動詞は、いわば『糊』である」

 ネコがページを読み終わるやいなや、風は反対側のページに吹き込んで、前のページをもう一度見せてくれました。「うーん、be動詞が『糊』ならば、くっつく前に『糊』の前と後ろとに離しとけばいいのかな?」

 ネコは、次のように英文を区切ってみました。

   I/am/Humphrey Areopagita.

   Your name/is/Bernard.

   We/are/in Pip Castle.

 風が一、二とページを進めると、「あなたは、天才」と書いてありました。

そして、冊子はもう最後のページです。

 「あなたのために私は懇切丁寧、三つの文章を否定文、疑問文とその答えとに書き換えておいた。目を見開いてよく考えれば、書き換えの法則は自分で発見できるもの」

 ネコは次のページ一いっぱいにぎっしり書かれた文字を見て、正直うんざりしました。それでも、時計を見るときっかり十一時になるまでに、まだ時間があります。

「この時計はちょうどの時刻に、やたらうるさい鐘を打つんだっけ。そしたら、またあのクモが起きてくるかもしれないし …」

ネコはなんとかがんばって、時間までに英文を読み終えてしまうことにしました。

¹ in ~ ~の中に


ネコの説明

 というわけで、この冊子の最後のページに書かれた文を、全部間違わないようにここに書き写し、おまけに訳もつけておいたよ。

 書きながらわかったことは、「be動詞」の否定文は、動詞の後に「not」を入れるだけ、疑問文は「be動詞」を前に出して、最後に「?」を忘れずつけることだ。

 難しいのは答え方だと思う。なぜって同じ単語をくり返さずに「it」なんていう違う単語に変えてるところがあるからね。

□I am Humphrey Areopagita.

 私はハンフリー・アレオパギタだ

□I am not Humphrey Areopagita.

 私は…….ではない

□Am I Humphrey Areopagita?

 私は…….なのか?

 Yes, I am./No, I’m not.

 はい、そうだ/いいえ、そうではない

□Your name is Bernard.

 あなたの名前は、バーナードだ

□Your name is not Bernard.

 あなたの名前は…….ではない

□Is your name Bernard?

 あなたの名前は…….なのか?

 Yes, it is./No, it’s not.*

 はい、そうだ/いいえ、そうではない

□We are in Pip Castle.

 私たちは、ピップ城にいる

□We are not in Pip Castle.

 私たちは…….にいない

□Are we in Pip Castle?

 私たちは…….にいるのか?

 Yes, we are./No, we’re not.

 はい、そうだ/いいえ、そうではない

㊟*「it」はmy nameを指す(詳しくは1-5参照)

👉be動詞は肯定・否定文ともに表記の仕方がたくさんある。自分の書きやすいもので統一しよう!(You are/You’re, You’re not/You aren’t …)