ハンフリーの携帯がさっきからブーブー音をたてて震えていました。彼は電源を切ると観客席へと戻っていきました。劇場の中では外に出ようとする観客たちが押し合って、ものすごい混乱が起こっています。
スピーカーを通して警備員が観客の誘導を始めました。警官の一人が「【A】Your Highness? Did you get injured?」とロイヤルボックスに向かって呼びかけていました。上を見るとピピンが振り返ることもなく、お付きのものに支えられるようにして、ふらついた足取りで退出するところです。付き人の一人が「【B】A bullet hole!」と銃弾が打ち込まれた手すりの角を指さして怒鳴っていました。ヘルメットの警官が数人、二階席へとかけ上っていきます。
「ひどいありさまだ」とハンフリーが首を横に振りました。ハンフリーは携帯の電源をもう一度つけて、莫大な数のメッセージに目を通しました。
「犯人は逮捕されたらしい。 幸いにも今のところ死傷者は出ていない …」
なんとか劇場の外に出ると、立ち入り禁止のテープが至るところにはりめぐらされ、パトカーと白バイが交通規制していました。
「この辺は、ちょっとやそっとじゃ抜けられないようになってるぞ。送ってくよ、バーニー」
「いや、いいっす。 自分で帰れますよ(I think I can manage.)」
「だけど、近道を知ってるんだ(I know a short cut.)」
ハンフリーがちょうどパトカーから出てきた警官に話しかけると、警官は地面にあったフロアスタンドを動かして、ネコとハンフリーだけ裏道へ通してくれました。ハンフリーは狭い通りを右へ左へネコのペースで歩いてくれます。
「今日は、いい息抜きになったと思ったけど、せっかくの楽しみが最後にこうなるとはね(It was a good change of pace today. Such a shame that a lovely occasion ended up like this.)。こんな事件ばかり続くと、誰だって信用おけなくなるもんさ。いつもいっしょにいるやつでさえ、案外一番の敵じゃないかって思うようにさえなる。バーニー、キミも気をつけた方がいいよ(Do take care of yourself, Bernie.)」
ネコは、ハンフリーが半ば危険を覚悟して毎日業務にあたっているのだと思いました。考えたらそれは王族だって同じことなのです。
「ロイヤルボックスに銃弾の跡があったんすよね(There were some bullet holes in the Royal box.)。これって、ねらわれたのはピピンってことなんすか(Does that mean Pippin was targeted?)」
「うーん。これから犯人を取り調べればもっとわかるだろうけど」
「はあ、そうすか。取り調べってのは刑務所でやるんすか(Are interrogations conducted in prison?)」
「刑務所(Prison?)。刑務所は判決が下ってからだから、まだ留置所だと思うけど(I think the suspect is still in the detention centre. He goes to prison after sentencing.」
「はあ、ハンフリーは刑務所にはいたことがあるんすか(Did you ever spend time in prison?)」
「オレが刑務所(Did I spend time in prison?)」とハンフリーは立ち止まると、面白そうに笑いました。
「いや、いたことはないね(No, I didn’t.)。まあ、仕事がら本当は刑務所の視察もした方がいいんだろうけど、他のことで忙しくて(I know I should visit the prisons but I think it impossible to do so now. I’m busy with other work.」
「へえ、そうすっか(Are you?)。実はオイラ駅からだけどオッカム刑務所を眺めたことあるんすよ(I actually saw the Tower of Ockham from the station.)。ミリーが教えてくれて、偶然列車であってね(Milly pointed it out for me. We met by accident on a train.¹)。 It’s not as old as Pip Castle, but it’s about twice as large as the castle.」
携帯がまた鳴り出しました。「失礼(Excuse me.)」とハンフリーは電話に出ると、機関銃のような勢いで英語で話しています。
「バーナード、悪いけどこれでいかなくちゃ(I’m sorry, but I must go now.)。キミのホテルはそこを左に曲がればまっすぐだから(Turn left and walk along the road to get the hotel.²)」
ハンフリーは軽く手を上げると、クルリと踵を返して携帯を耳にあてたまま、もと来た道を弾むようにかけていきました。
¹ by accident 偶然に
² walk along ~ 〜に沿って歩く
《日本語訳》
【A】
「殿下、ケガはないですか?」
【B】
「ここに銃弾の跡があるぞ!」
🐤ブンポウの話
【文中の表現】
A)The prison is not as old as Pitt Castle. その刑務所はピット城ほど古くはない
B)It is about twice as large as the castle. それは、その城の約2倍の広さだ
●いろいろな比較級(発展)
A) not as ~ (as) … 「…ほど~じゃない」
書き換え⇒Pitt Castle is older than the prison.
B) twice as ~ as … 「…の2倍の~だ」
書き換え⇒It’s about twice the size of Pitt Castle.
👉この手の複雑な構文は、例文を暗記するのが一番の近道
