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  • タイムカマド(第3章2話)

     「あたしは今日つくづく感じたね、『三大カマド』の中でもこの『過去カマド』ときたら、あたしの祖先の一番の失敗作だ(I really felt that out of the three cauldrons, the “Past Cauldron” was the worst of our ancestors’ creations.)」と、魔女は青塗りのタクシーの中で不服そうにいいました。

    「だいたい『過去形』でいったい何が聞けるってんだい(What sort of questions can you ask in the past tense?)。いわれたことだって、すべてもう終わったことだし、不規則動詞の暗記で多大な時間を費やしてる割には、役立たずのセンテンスっきり思い浮かばない。まったく、これじゃあ、先が思いやられる(The future looks bleak.)」

     魔女が夢中で話しているのに、ネコはさっきから黙り込んでいました。

    「ちょっと、お前? 窒息かい(Hey, are you suffocating?)」と魔女がバッグのファスナーを引っぱると、「すんまへん、聞いてなかったっす(Sorry, I wasn’t listening.)。ミリーっす(I was thinking of Milly.)」とネコがか細くつぶやきます。

    「ミリー?」

    「そう。 さっきアレオパギタの秘書みたいな女性が出てきたっすよね、ロビーに? あれが、ミリー」

     ネコは「現在カマド」の旅のとき、列車の中で起こったことをすべて魔女に話してみました。魔女は最初感心しながら聞いていましたが、途中から何か思い当たることがあるのか、じっと車の天井を見上げています。

    「あたしもそのミリーって子、前に見たことあるな」

    「えっ、じゃあ、あのとき列車で寝たふりしながら、オイラたちの英会話、聞いてたんすか?」

    「バカいうんじゃないよ(Don’t be silly!)」と魔女は笑いながらも、目は真剣になっています。

     「ほら、あたしがこの本をちょっと借りてきちゃったのは、掃除人のふりして官庁ビルを偵察してた時だっていったろ? そこであたしは最初あのミリーって子に気がついたのさ(I first noticed Milly there.)。あの子は本をもってウロウロしてた(She was wondering around with the book in her hand.)。あやしいと思ったから、職務室までつけていった(I thought it fishy so I followed her to the private office.)。そしたら、あの子は本を机に置いて、本が曲がってないか位置まで直したりしててさ(She was putting the book down on the desk and even adjusting the position of it there.)。だから、あたしはよっぽどそれが大切な本なんだろうと、余計気になっちゃったってわけ(So I thought it must be a very important book and became more curious about it.)」

    「ふーん。ミリーも勝手にその本を借りちゃってて、それで返しにきたんすかね(Hmm, isn’t it possible that Milly borrowed the book without permission and came to return it?¹)」

    「それもありえる(That’s possible.)。とにかくこの本、早く持ち主に返してすっきりしたくなってきたよ(I’m eager to return this book to the owner as soon as possible and clear my conscience.²)」

     タクシーは、アエロパギタ氏の住所とされる「西区メロディー通り4番地」に到着しました。ところが呼び鈴を鳴らしても、ノッカーでドアをたたいても誰も出てきません。魔女はバッグからネコを下ろして、木のスプーンを取り出すと赤い目盛りを確認しました。

    「仕方ない、空いた時間にホテル探しをするとしよう。このカマドには、明日の早朝ぐらいまでいられるからね(We can stay in this “Past Cauldron” till early next morning.³)。捜索の合間に休める本拠地をつくらないと(We need to set up a temporary base to use between investigations.⁴)」

     魔女が歩き出したのでネコもついていくと、通りの向こうで「おーい」とやけに背の高い男がこちらに両手を振ってきました。男は魔女とネコが立ち止まったのを見ると、全速力で走ってきます。そして、スライドしながら地面になだれ込むと、もっていたビニール袋を地面に置いてバーナードにしっかと抱きつきました。

    「バーニー? 信じられない、バーニーだろ(I can’t believe it! You’re Bernie, aren’t you?)」

    「オイラのこと、知ってるんすか(Do you know me?)」

    「何いってんのさ(What are you talking about?)。オレだよ、オレ。 ハンフリー(It’s me! I’m Humphrey.)」

    「ハンフリー(Humphrey?)。ハンフリー・アレオパギタ(Humphrey Areopagita?)」

     男はうなずくと、肩まである髪をかきあげながらスックと立ち上がりました。そして、魔女とネコをうれしそうにもっと空の近くから、かわるがわる見下ろしていました。

    ¹ without ~ ~ なしで

    ² as soon as possible できるだけ早く

    ³ till ~ ~まで

    ⁴ between ~ ~の間 ⇒between A and B


    🐤ブンポウの話 

    ●過去形

    1)be動詞の過去形

    ◎am/is→was are→were

    ◎疑問文⇒前に出す

    ◎否定文⇒wasn’t/weren’t

    2)一般動詞の過去形

    ◎動詞に-ed、または不規則変化 (㊟-edのつけ方例外あり) 

    ◎疑問文⇒Did …?

    ◎否定文⇒didn’t …

    👉不規則動詞は過去形だけでなく「過去分詞」もここで覚えてしまおう!

    🖊動詞thinkの使い方

    1) think+(that)文 

    ・I thought it must be a very important book.

    2) think+目的語+補語(SVOC)

    ・I thought it fishy.

    3)think ofの後は名詞(or ~ing) 

    ・I was thinking of Milly. 私はミリーのことを考えていた

     ㊟think about ~ ~を(じっくり)考える

    👉1)の形はthat以下の「文」の部分が、塊としてO(目的格)になっている

    thinkの他にもこの構造をとる動詞はたくさんある

    ⇒know/believe/suppose/realise/expect …

  • タイムカマド(第3章1話)

     煮炊き場の一番左に置いてある「過去カマド」のスープは、甘いチョコレートの味がしました。ネコが舌なめずりしながら宇宙を旋回すると、たどり着いた世界では冷たい雨が降っていました。

     ネコと魔女は、アーチ型の橋のふもとに投げ出されていました。足先1メートルに流れる河の水面では、吹き込んでくる雨粒が跳ね返り、まるで酸欠になった魚が口を開けて集まってきているようにも見えます。

     ネコが首を伸ばして橋を見上げると、ちょうど朝の出勤時間なのか、たくさんの人がカサもささずに足早に通り過ぎていました。

    「雨に濡れるのが好きな人もいるんすね(Some people like getting wet in the rain.)」

    「さあ、雨なんてすぐ止むからだろ(It’s just a passing shower.)」

     魔女は片手で口をおおってあくびをこらえると、やれやれと起き上がりました。立ち上がると、そのいで立ちはいつもと少し違って見えます。

    「なんか普通の観光客みたいっすよ(You look like an ordinary tourist.)」

    「いいだろう(Don’t I look good?)。ここは大都会だし、あたしみたいに目立っちゃう人は、それでなくても気をつけないと」

     魔女はマントの代わりにアノラックを着て、肩から大きなバッグを斜めがけしていました。そしてバッグのファスナーを開けて、ネコにこっそり中身を見せてくれます。木のスプーンにクシャクシャに丸まった紙、そして『錬金術と金ののべ棒』の本の下にあるのは、鉛色した重そうな …?

    「わっ、なんすかそれ(Wow, what’s that?)。 ピストル(A pistol?)」

    「ふふ。38口径(Thirty-eight.)」

    「誰のなんすか(Whose pistol is that?)」

    「あたしのさ(This is mine.)。でもこれ紙だもん」

    「紙? ははーん、魔法で出したんすね(Ah, I see. You got it by using your magic?)」

    「そう、出発前に徹夜してやっと一丁(Yes. I stayed up all night before the departure and managed to get one for myself somehow.¹)。だからお前の分はないんだけど(So I don’t have yours.」

     魔女は少しすまなさそうにバッグのファスナーを閉め上げると、土手を登って橋に出ました。雨は小降りになってきて、向こう岸に建ち並ぶ茶色い建物全体が、くっきりと水にその姿を映しています。

    「あれがアレオパギタ氏が働いている官庁街だよ。まずはこの本を返してみて、ついでに色々話を聞いてみるとしよう(Let’s return this book first, and use the opportunity to ask him some questions then.²)。もしかしたらお父上の失踪について、少しでも手がかりになることがつかめるかもしれないしね(It might be possible to get a few small clues on your missing father.)」

     官庁街の大通りに入ると、もう業務が始まったからか意外にもひと気が少なく、走り去っていく車の音ばかりしていました。舗道脇の緑の芝生には、鎧姿のネコの銅像があって、さっきの雨で洗われたのか黒く輝いています。

    「ええと、このあたりなんだけど(Well, the building should be around here.)。そうそう、ここが内務省だよ(I was right. This is the Home Office.)」

     魔女がガラスばりの入口付近で立ち止まって、自分の姿をチェックし出すと、近くのビルの時計が十時を鳴らしました。

    「カサンドラ、また清掃員になるんすか?」

    「ふん、そんなわけないだろ」

    「だったら、オイラの方はどうしたらいいんすかね(Well, then what about me?)。もしかして、誰かがオイラのこと気づかないっすか? 『あのイケメンプリンス・バーナードがここにいるぞ(That handsome Prince Bernard is here.)』なんてね」

    魔女はネコの額のマジックを指でなぞると、「そういうことはないと思う(I don’t think so.³)」といいはりました。

    「それにこの官庁ってのはさ、事務手続きをする民衆だけが働いているとこだし …。だけど、そんなに気になるなら、あたしのバッグに入ってるかい?」

     ネコがバッグに跳び込んで紙のピストルを踏みつけると、「ちょっとお(Watch out!⁴)」と魔女が声を上げました。すれ違う人が不思議そうにこっちを見るので、魔女はごまかしの笑みを浮かべています。それから指をパチンと鳴らして手の中に名刺を出すと、階段をかけ上がって回転ドアをすり抜けました。

     そこは内務省専属の静かなロビーでした。入口に警備員と、奥に受付の女性がいるだけです。

    【A】「Excuse me. Could I see Mr Areopagita?」

    「Mr. Areopagita? Oh, the Home Secretary? Could I have your name, please?」

    「Cassandra Trick. Political journalist. Could I have an interview with him this morning?」

    魔女が名刺を差し出すと、女性はデスクの電話を取って誰かを呼び出しました。

    「Hi, Milly? A political journalist would like to talk to the Home Secretary, … yes, alright.」

     女性は電話を切ると、ロビーにある椅子をぶっきらぼうに指さして、そこで待つよう指示しました。魔女が長椅子に腰を下ろそうとしたとき、奥の自動ドアが開いて、こちらに歩いてくる女性がいます。女性はスラリとしていて、膝小僧の出る緑色のスーツを着ていました。

    「ミリーだ」と、ネコはバッグの中で思わずつぶやきました。

     「Hi.」とミリーが魔女に声をかけると、魔女はもう一度姿勢を正して自分の名刺を差し出しました。

    【B】「Cassandra Trick, political journalist. I would like to interview Mr. Areopagita for our new magazine “Public Ears” …」

    「Sorry, he didn’t come to the office this morning.」

     魔女は次に何といっていいか困ってしまい、差し出した名刺を裏返すと「【C】Then could you write down his home address here?」と、ミリーに頼んでみました。

     ミリーの顔は明らかにこのやっかいな客をどう追い払おうか、考えているところでした。魔女の顔を見ながらも、自分の時計をやたら触ってバンドの位置を調節しています。ところが、魔女のバッグの中からのぞいている小さな顔に気がつくと、ミリーは何を思い直したのか自分のペンでサラサラと、名刺の裏に住所を書きつけてくれました。

    ¹ stay up 寝ないでいる

      all night 一晩中

      somehow 何とかして

    ² then その時

    ³ I don’t think so. そう思わない

    ⁴ watch out 気をつける


    《日本語訳》

    【A】

    「すみません。アレオパギタ氏にお会いできますか?」

    「アレオパギタ? ああ、長官のことね。あなたのお名前は?」

    「カサンドラ トリック、政治記者です。午前中に彼にインタビューできますかね?」

    (魔女が名刺を差し出すと、女性はデスクの電話を取って誰かを呼び出しました)

    「ああ、ミリー? 政治記者だって人が長官に話したいんですって … 、わかったわ」

    【B】

    「カサンドラ トリック、政治記者です。アレオパギタ氏に私どもの新しい雑誌『パブリックイヤー』に掲載するインタビューをしたいと思いまして」

    「申しわけありません。長官は今朝出社しなかったのですが」

    【C】

    「それなら、ここに彼の自宅の住所を書いて頂けませんか?」(と、ミリーに頼んでみました)


    🐤ブンポウの話

     いよいよ「過去カマド」にやってきたね。 土地の人は「過去形」だけ使って話すけど、ここで取り上げていく文法事項はさまざまだよ。

     最初は形は「過去」だけど、意味は「現在」という助動詞の話から。

    ●Could I ~?/Could you ~?

    ◎許可を求める「〜できますか?」

    ・Could I see Mr. Areopagita?

    ・Could you write down* his home address here?   

                *write down ~ ~を書きつける

    ㊟couldはcanの過去形だが、よりていねい

    🔑「would like to ~」は「want to ~」のていねい表現(2-10注釈)

  • つけ足し文法

    🐤第二章の文法項目のいくつかについて、もう少し説明を補足しておこう!

    ●Let’s ~(2-1, 2-11参照)「~しよう」

    ㊟Let’s not+動詞「~するのをやめよう」

     ・Let’s not order fish at that restaurant. あのレストランで魚を頼むのはやめよう

    ●助動詞の疑問文(2-4参照)

    ◎助動詞を前に出す

    ・Can you ~? Should I ~? …

    ㊟・Do I have to ~? Does he have to ~?

     ・Do I need to ~? Does she need to ~?

    👉助動詞として使うneedの否定文・疑問文(文語的)

    ⇒You needn’t bring anything.

    ⇒Need I remind you that smoking is bad for health?

    ●命令文(2-11参照)

    ◎主語を落とし、動詞から始める

    A)Please wake up. どうか起きてください

    B)Don’t give up on Carl the Great! カール大帝をあきらめるな

    C)Be quiet! 静かに                             

                           

    A)「Please」をつけて、ていねいな口調に

    B)「Don’t」をつけて「~するな」

    C) be動詞は原形「be」から 

     

    👉動詞から始まっているが命令でない表現

    ⇒Have a nice holiday! よい休暇を

       

    ●所有を表す-’s(2-11参照)

    ◎複数の人が所有する意味の「~の」は、アポストロフィのみ

    ・my parents’ car

    ◎二語を受けても使える

    ・Jack and Mary’s dog

    ◎-’sの後の名詞は省略も可能

    ・Whose hat is this? It’s my sister’s.

    ㊟モノ・場所の「〜の」ではof~が使われる

     ・in the back of the car

     ・the name of that village

  • タイムカマド(第2章12話)

     「やったねえ(Well done!)。お前、やったじゃないか」と、魔女はいつものリビングで、ネコの話を聞きながら手をたたいて喜んでくれました。

    「お前の話は飽きさせないね(Your stories never bore me.)。まさか、ウソいってるんじゃないだろう(You can’t be telling the truth!)」

    「とんでもない(No way!)。オイラ、ウソはついたことないっす」

     正直ネコは、魔女にここまで褒めてもらえるとは思いませんでした。それどころか、王族会議で勝手に自分の正体を明かしてしまったことで、叱られるんじゃないかと不安だったのです。

    「最後にあんな騒ぎにはなったけど、お前の忍びは成功だったと思うよ」と、魔女はネコの気持ちを察したかのようにいいました。「どっちにしろ、あたしたちがこれから行くのは『過去カマド』なんだから」

    「それって、どういうことっすか」

    「うん、それってさ、あたしらが『現在カマド』で何をやらかそうが、『過去カマド』にいるやつは、何も知らないってことさ」

    「そりゃあ、いい。オイラちょっとショックだったんすよ。親類が一人としてオイラのことを気づいてくれなかったんすよ。でも、この顔のマジックが取れたら、みんなプリンス・バーナードを認めてくれるってことっすよね」

    「そのマジックは油性だ(That ink is oil-based.)。当分落ちない(It shouldn’t fade easily.)」

     ネコがじゅうたんにうっぷしている間、魔女は黙って考えているようでした。そして、ネコのしっぽを引っぱると「あのさ、あの会議室に入る時の合言葉、どうやってわかったんだい?」と優しくたずねました。

    「それはですね」と、今度はネコが眉根を寄せて考え込みました。「ええっと、どこかで聞いたことがあったんすよ、そうそう、クモっすよ」

    「クモ?」

     ネコはクモに会わせた方が早いだろうと、魔女を階段脇に連れていきました。ところがクモはどこかに消えていて、古い巣は完全に壊れて風に揺れています。

    「あたし、クモは苦手でね(I’m not good with spiders.)」と、魔女は申しわけなさそうにいいました。

    「はあ、でもあのクモは特別なんすよ(Aren’t you? But that spider is special.)。あのクモは英語を話すんす(She speaks English.)」

    「英語を話せるクモなの(Can the spider speak English?)」

    「そうっすよ(Yes, she can.)。あの合言葉の格言だって、あっちの世界の常識だっていってて。そうそう、それに文法のわからないオイラに、本のありかも教えてくれて、ほら」

     ネコは柱時計の振り子の裏から、『錬金術と金ののべ棒』の本を取り出しました。魔女に渡すと、赤い冊子もまだちゃんと中にはさまっているようです。

    「なんだ、これ(What’s this?)。あたしの本だよ(It’s my book.)。いやいや、待てよ(No, wait a minute.)。あたしのじゃない(It’s not mine.)」

    魔女は本の表紙をなでながら、ちょっと気まずそうにいいました。

    「わかったよ(Now I understand.)。そのクモっての、この本にひっついて、あっちの国からいっしょにまぎれ込んできたんだね」

    「?」

    「実はここだけの話、あたしはお前がこの家に来る前から、一人であっちにいっては、ポツポツ捜査をやってたんだけどさ。ほら、例のごとく清掃員のふりして忍び込むってやつさ。その時入った官庁ビルで、机の上にこの本があったんだ。だから、ちゃっかりもってきちゃったってわけ」

    「わあ、カサンドラって、犯罪型の魔女だったんすか(Wow! Are you the criminal type of witch, Cassandra?)」

    「こんな時、あたしを名前で呼ぶんじゃないよ(Don’t start calling me by my name now.)。そうじゃない、ただこの手の本には興味があったからさ。でも、持ち主にはいつかちゃんと返そうとは思ってたよ。まだ読んでないけど …」

    「Whom should you return the book to?」

    「たぶん、この冊子の名前の人だろ(Probably, to the person on this leaflet.)。どう見てもこれはメモ帳に見えるし(It looks just like a notepad.)。ええと、ハンフリー・アレオパギタ?」

     魔女は急にひらめいたのか、自分のこぶしで手の平をパチンとたたきました。

    「思い出した。アレオパギタ氏はカール大帝のスピーチライターだ(Mr. Areopagita is a speechwriter for Carl the Great.)。英語とラテン語の完全なるバイリンガルでね(He is perfectly bilingual in English and Latin.)。彼はいわば言葉の魔術師だよ(He is, so to speak, a magician of languages.¹)」

    「やっぱりな」と、ネコはあらためてクモの素晴らしさを感じていました。

    ¹ so to speak いわば


    🐤ブンポウの話

    ●疑問詞 (3)

    Whom ~?

     疑問詞whoは厳密にいうとwhomという仲間がいる。以下の文が、なぜwhomになりtoという言葉を最後に残しているのか、考えてみよう。

    【文中の表現】

    □Whom should you return the book to? あなたは誰に本を返すべきなのか

     ㊟To whom should you return the book?といってもよい

    ☆whomの文を元から組み立ててみよう

    ・You should return the book to Areopagita.

    ➀上記の文で太字の部分がわからないとすると、そこはwhomに置き換わる*

    ⇒whomは疑問詞なので文頭に出る

    ⇒残りを疑問文の形にしてくっつける  🔑助動詞の疑問文⇒「つけ足し文法」参照

    ㊟*主語の部分はwhoに置き換えるのだが、「誰を、誰に」だったらwhom

    👉口語ではWho should you return the book to? でもよい

  • タイムカマド(第2章11話)

     「定例会議」は恐ろしく退屈なものでした。報告者の話は、紙を読み上げるだけの一本調子なもので、出席者は明らかに誰もがウツラウツラと居眠りをこいていました。ネコもカーテンの後ろで、ひどい睡魔と戦っていました。「衰退、低下、不足、暴動」という言葉が、ほとんど夢の中でとび交っていました。

     「でんかー(Your Highness!)」と突然大声がして、ネコはビクっと跳び起きました。カーテンのすき間からのぞいてみると、どうやら怒鳴られているのはピピンでした。

    「殿下、起きて下さい(Please wake up, Your Highness.)」

     横にいた老齢のネコから頭に水をかけられて、ピピンは「はい、殿下(Yes, Your Highness.)」と寝ぼけながらやっとテーブルから頭を上げました。それから、水差しをつかむと自分で自分の頭に水をかけています。

     「じゃあ、報告はそういうことですね。ありがとうございまあす(Thank you very much.)」とピピンは何事もなかったかのように話し出しました。

    「ええと、それでは連絡事項ですね。まず、ワタクシめの戴冠式ですが、年末を予定しております、と、そのとき、大変イカ、いや遺憾なのですが、カール大帝の崩御の知らせも同時に行わなくてはなりません。それから年頭スピーチは、ワタクシが受けもちまして …」

     「待ってください(Wait a minute!)」と、部屋の後ろから声がかかりました。「そりゃあ、大帝がこれだけ探しても出てこないなら、ピピン殿が王位を継ぐのは致し方ないとしても、これで民衆が納得しますかね」

    「はい、民衆めは、ワタクシめのスピーチを聞いてもらって …」とピピンが答えると、質問者はかみつくようにいいました。

    「そういうことをいってるんじゃないのです。民衆が求めているものは二つ、それは心を動かすスピーチと本物の純金の首輪です。だいたい首輪をつけていないネコを、民衆は王として認めてくれるとは思えませんよ」

     誰もが「そうだ、そうだ」といい始めました。さっきまで、ぼんやりとまぶたを閉じていたものまでもが、こぶしを振って参加しています。

    「一体、どうするんだ(What should we do?)」

    「カール大帝をあきらめるな(Don’t give up on Carl the Great!)」

    「戴冠式の前に金の首輪を見つけるのが先決じゃないか(Isn’t it essential that we find the gold collar before the ceremony?¹)」

    「それよりバーナードはどうなんだ(What about Bernard?²)。彼に何があったんだ(What happened to him?³)」

    「そうだ、あの大帝の愛する一人息子のプリンス・バーナードだ(Where’s Prince Bernard, Carl the Great’s beloved only son?)」

    「Bernard speaks English more fluently than you.」

    「He is taller than you, and much younger than you. He is the most promising cat in this castle.」

    「そうだ、そうだ(That’s right.)。That Prince is the fairest heir to the throne. まずは、彼を見つけ出そう(Let’s find him first!)」

     ネコはカーテンの裏で、喜びに心を震わせていました。「みんなオイラのこと、こんなに信頼してくれてるんすね(All of you trust me so much.)。ここまでいわれて、隠れているわけいかないっす(I can’t keep hiding myself here after hearing all your positive comments.⁴)」

     プリンス・バーナードは意を決すると、カーテンの裏からみんなの前におどり出ました。

    「オイラです、帰ってきたっす(I’m back!)。みなさんのバーナードっす(It’s everyone’s favourite Bernard.⁵)」とVサインを出して叫びました。さっきまでの騒々しさがピタリとおさまって、誰もが顔を見合わせています。

     そんなとき、落ち着いて一番に行動を起こしたのがピピンでした。ピピンはドアを開いて、声の限りに護衛を呼んだのです。

    「不審者だあ(Intruder!)。あの白と黒のやつだ(That black and white one!)。捕まえろ(Catch him!)」

     ドヤドヤとサーベルを下げた護衛官が、何人も回廊を走ってやってきました。その中に小柄な女性が一人混じっています。女性は後ろ手に縛られたバーナードに木のスプーンをかじらせると、バーナードはあまりの苦さに、宇宙で大回転していました。

    ¹ a minute ちょっと

    ² before ~ ~の前に(前置詞)

    ³ What about ~? ~はどうなんだ?

    ⁴ happen to ~ ~に起こる

    ⁵ keep ~ing ~し続ける 

      after ~ ~の後に(前置詞)

    ⁶ ~’s ~の(所有格)


    🐤ブンポウの話 

    【文中の表現】

    A)Bernard speaks English more fluently than you.

     バーナードはあなたよりもっと流暢に英語を話す

    B)He is taller than you, and much younger than you.

     彼はあなたより背が高いし、もっとずっと若い

    C)He is the most promising cat in this castle.

     彼はこの城で最も期待されるネコだ

    D)That prince is the fairest heir to the throne.

     あのプリンスこそ一番正当な王位継承者なんだぞ

    ●比較級 「(~より) …だ」

    ◎単語に-erをつける ←文中表現B)                   

    ◎長い単語(2シラブル以上)はmore ←文中表現A)

    ㊟much/a bitなどで強調も

    👉これも覚えよう

    ◎good/well⇒better

    ◎bad⇒worse

    ◎far⇒further(farther)

    ●最上級 「最も…だ」

    ◎the*+単語に-estをつける ←文中表現D)

    ◎the*+長い単語はmost ←文中表現C)

     ㊟*theは通常つけるが、my youngest childなども〇

     ㊟場所、グループはin

      時間ではof ⇒Today was the hottest day of the year.

     ㊟the oldest/the best/the most expensive, etc. はそれだけで使える

      ⇒These shoes are the most expensive.

     ㊟elder/the eldestは(+人)のみ(the eldest building×)

    👉これも覚えよう

    ◎good/well⇒best

    ◎bad⇒worst

    ◎far⇒furthest(farthest)


    1-7)の答え

    「You’re a prince.」といいたかった

  • タイムカマド(第2章10話)

     城の中は予想以上に広く、いくつもの部屋が長い回廊でつながっていました。ネコは「ムニャアの間、ムニャアの間」と、忘れないようにくり返しいいながら歩いていくのですが、それがどこにあるのか見当もつきません。それで、階段ですれ違った王族のネコに思いきって聞いてみると、相手は少しうろたえながらも「ええっと、『ムニエルの間』のことですよね(Well, you mean the “Meuniere Room”, don’t you?)。その階段下りて右、回廊の突き当たりですけど(Go downstairs, and turn right. The room is at the end of the corridor.)」と教えてくれました。

     ネコは去っていく王族ネコの後ろ姿を眺めながら、突然、自分の顔が心配になってきました。さっき魔女がマジックをぬって変装させてはくれたのはいいのですが、それがどんな具合になっているのか、まだ確認していなかったのです。そこで、途中調度品として飾られていた丸い鏡があったので、こっそりのぞいてみると、そこには見たこともない白黒のネコが映っていました。それも、耳と耳の間にぬったマジックが、黒いノリのようにベッタリくっついた、ネコというより「お結び」のような顔をした生き物がいます。

    「これはないっすよ(This is ridiculous.)。この城にこれはない(I shouldn’t be here.)」

     ネコは一点の汚れもない赤いじゅうたんの上を歩きながら、自分がこの場に似つかわしくないという恥ずかしさで、小走りになってきました。ところが、奥にいけば行くほど、置いてある家具は、どれも爪を研いだような傷一つない立派なもので、壁にかかった肖像画ときたら、額縁の厚いものに変わっていきます。しかも、どの絵からもきらびやかな光が放たれていて、それは、描かれた金の首輪からだということがわかりました。どうも、それらは歴代の王さまのようです。

     回廊の突き当たりまでやってくると、最後の肖像画の一枚に「第16代、カール二世」というプレートがつけられていました。「父上 …」とネコは堂々とした黒ネコのたたずまいを仰ぎ見て、思わずつぶやきました。

    「オイラ、いや自分はこれから任務を遂行します。だいじょうぶっす、必ずうまくやりますっす」

     目の前のドアがほんの少しだけ開いて「入りますか(Would you like to come in?¹)」と中から声がかかりました。

    「定例会議室ですよね(Is this the meeting room?)」

    「もちろんです(Of course)。『正しい生活と言葉の …?』」

     相手の言葉がセリフのように途中で止まったので、ネコは一瞬、頭の中が真っ白になりました。

    「なんだこれ(What’s this?)。何かの合言葉かな(Is this some kind of password?²)」

    そこで、やみくもに「正しい生活と言葉の正確な使用とは影響し合う?」といってみると、ドアは大きく開いてそのまま中に通されます。

     「うわあ、ついてる(Wow! I’m lucky!)」と、ネコは心の中でこおどりしました。それでも「お結び」の自分を忘れてもいなかったので、ここは慎重に何気なく部屋をヒタヒタ横切ります。そして、カーテンの下に忍び込むと、すでに席についている王族ネコたちは、手元の書類に気を取られているからか、誰もが顔さえ上げていませんでした。

     入口から大股歩きのネコが、お付きの人をたずさえ入ってきました。ピピンです。ピピンがあらわれると、前列の王族ネコたちは一斉に立ち上がって、軽く頭を下げています。

    「うん、それじゃあ、少し早いけど始めちゃおっかな。ええと、最初は報告からだったですよね。ああ、その前に水がいるな」

     ピピンは、お付きの人にGive me many water!」と、気取っていいました。

    「Many water, Your Highness?」と付き人が聞き返しています。

    「うんうん、A few water, … little water, please?」と、ピピンはわからなくなって、頭をかきむしりました。付き人があわてて水を取りに出ていくと、ピピンは何事もなかったかのようにテーブルを見回していいます。

     「そうそう、この会議の前にワタクシめの方からご報告させていっただっきまあす。ワタクシめとロージーは婚姻しました。すでに書面を交わしております」

    「それは殿下、おめでとうございます(Congratulations, Your Highness.)」とみなが口々にいいました。

    「はい、ありがとう(Thank you very much.)」と、ピピンもうれしそうに頭を下げました。

    ¹ would like to ~ = want to ~(のていねいな表現)

    ² some kind of ~ ある種の~


    🐤ブンポウの話 

     数の表現にもう一度戻ろう。a lot of ~やsomeの他にも、数を表す以下四つの表現がある。ここで注意するのは「数えられる」か「数えられない」モノを表すのかによって、表現を使い分けることだ。(どうりでピピンが混乱していたわけだ)

    ●manyとmuch「たくさんの~」

    ・many pictures ←数えられるモノ

    ・much money ←数えられないモノ

    ㊟muchは肯定文で使えない We spend much money.✕

     ⇒We spend a lot of money.(or too much/so much/as much)

    ㊟years/weeks/daysにはmanyを使う a lot of years✕ 

     ⇒many years

    ●a fewとa little「少しの~」

    ・a few days ←数えられるモノ

    ・a little time ←数えられないモノ

    👉「a」を取って否定的な意味に

    ⇒There are few people in the theatre. 劇場には、ほとんど人がいない

    ⇒There is little water in the tank. タンクには、ほとんど水がない

  • タイムカマド(第2章9話)

     アダムは地下の配膳室のとなりにある食品貯蔵庫の狭い机で、さっきからイラついていた。ケータイでわからなかった文法事項を調べていたのに、急にネットが切れたからだ。

     この城では、こんな具合に電波が切れることはよくあることだった。ただその日に限って、仕事はネットなしには先に進まないことが、十分過ぎるほどわかっていた。それというのも上司から添削を頼まれた英文書類が、最初のパラグラフを読んだだけであまりにも間違いが多く、どう赤ペンを入れたらいいのか、四苦八苦していたからだ。

     「All of the noble cats here are terribly different from us. They are not interested in mobile phones, or even electrical appliances. Are they scared of electricity? Then they shouldn’t complain about the slowness of my work so often. I check the copy machine every day, respond to emails, and produce hundreds of sets of documents for their meetings. How can His Royal Highness ask me to do more work? I’m fed up with it.」

     「Adam, what are you doing?」と、そのとき同じ地下で働く料理番の男がノックもしないで部屋に入ってきた。料理番はアダムの肩越しから書類をのぞきこむと、口を開けて笑っている。

    「Pippin is a crazy guy.」

    「I know. But I must finish this by five o’clock.¹ The meeting starts from half five this evening.」

    「Wow, you’re terribly busy, aren’t you? By the way, look at this!² Isn’t this your hometown?」

     料理番はそういいながら、その日の朝刊をテーブルに投げて見せた。一面の見出しには「ペトルス地区で暴動。死傷者多数」と書いてある。

    「This is horrible news.³ At least my family is fine.⁴」

     料理番は「よかった」というふうに軽くうなずくと、ポケットから封筒を出してアダムに差し出した。

    「Isn’t this yours? Your name is there.」

    「A message? I receive messages on my mobile.」とアダムがいうと、料理番は肩をすくめていう。

    「We have a bad internet connection here, but I think it’s dangerous to exchange messages by letter.⁵ There might be some suspicious people working in this castle. They might be anti-royals.」

     アダムがそれを聞いて面白そうに声を上げて笑うと、料理番の男もいっしょに笑った。

    ¹ by ~ ~までに 

    ² look at ~ ~を見る 

    ³ newsは数えない

    ⁴ at least 少なくとも

    ⁵ by ~ ~で(手段)


    🐤ブンポウの話 

    【文中の表現】

    □How can His Royal Highness ask me to do more work?

     なんだって殿下は私にもっと仕事を頼むことができるんだろう?

    ●動詞+(人)+to …

    ◎上記の構造をとれる動詞

    want/ask/tell/advise/expect/persuade/teach …

    ・I want you to be with me.

     私は、あなたに私といっしょにいて欲しい

    ・Our coach expects us to win for the next competition.

     コーチは私たちに次の大会で勝つことを期待している

    👉文型でいうと、これは第五


    🖊イディオムを覚えよう

    ☆アダムは何を考えていたのだろう?

    A)All of the noble cats here are terribly different from us.

    B)They are not interested in mobile phones, or even electrical appliances.

    C)Are they scared of electricity?

    D)I’m fed up with it.

    A)be different from ~   ~と異なっている

    B)be interested in ~ ~に興味がある

    C)be scared of ~ ~が怖い

    D)be fed up with ~ (ing) ~が嫌になっている

    《日本語訳》

    「ここにいるすべての高貴なネコたちは、ひどく自分たちとは違っているな。彼らは携帯どころか、電気製品にさえ興味なんかない。彼らは電気が怖いのかな。だったらオレの仕事が遅いってちょくちょく文句いうべきじゃないね。オレは毎日コピー機を点検してるし、メールに返事して、彼らの会議用に大量の書類をつくってやってる。なんだって殿下はオレにこれ以上の仕事を頼めるんだろう。まったくイヤになる」

    「アダム、何してんだい?」「ピピンっておかしいよな」

    「だよな。だけど、これ5時までに終わらせなくちゃ。会議は夕方5時半から始まるんだ」

    「へえ、すごく忙しいんだな。ところでこれ見てみろよ。お前の故郷じゃないのか?」

    「これは、ひどいニュースだ。少なくとも、自分の家族は無事だよ」

    「これってお前のだろ? 名前が書いてある」

    「メッセージ? メッセージなら自分の携帯でやってるけど」

    「ここはネットの接続がひどいけど、手紙でメッセージのやり取りするのは危険だと思うね。この城には不審者が働いているかもしれない。やつらは、王政反対者かもよ」

    ㊟最後のセリフ

    ・I think+[文] ⇒私は[文]だと思う

    ・people working in this castle ⇒working(働いている)がpeople(人々)を後ろから修飾

                          

     

  • タイムカマド(第2章8話)

     ネコはバルコニーに取り残されたまま、しばらくそこで自分がこれから何をしたらいいのか、頭の中を整理していました。すると、城の奥から誰かの話し声がするので、ぎょっとなって柱のかげに身を隠しました。

     声はどんどん近くなって、バルコニーに出てきたのは、白いネコと一回り大きなキジトラでした。

    「それで、あなたの戴冠式は決まったの?」

    「ああ、ほぼ決まりだよん。今日の定例会議で決定させるよん」

    「バーナードが消えちゃったり、大帝がいなくなって大変だったけど、これからはあなたが王としてやっていくんですものね」

    「ああ、そうだよ。王になるのは、いいもんだ(It’s good to be the King.)。やりたいことができるからね。だから、キミの欲しいものだって、何でも手に入れてやるよ、ロージー」

    「あなたって頼りになるのよね、ピピン(You’re so dependable, aren’t you, Pippin?)」

     それは、ロージーとピピンでした。ピピンはロージーの手を取ると、しばらくその横顔を見つめていました。ロージーも何もいわずに空を見上げています。

    「でもさ、一つ問題があって(However, I have a problem.)」と、いい出したのはピピンでした。

    「まあ、ピピン、怖いの? テロリスト?」

    「いやあ。そんなの、警備を二倍にすればいい。We have enough budget for that.」

    「じゃあ、スピーチの英語(Your English then?)」

    「My English is good enough. それに、何ならスピーチライターでも頼めばいいし(I can hire a speechwriter anyway.¹)。そうじゃなくって、王の地位を示す金の首輪がないんだよん」

    「まあ、金の首輪ってないほうがおかしいでしょ。宝物庫とか金庫とかにあるってば(That must be in the treasure house or the vault.)」

    「それが、どっこにもない、どっこにも(I can’t find it anywhere.)。どうやら首輪の保管場所を知っているのは、兄さんだけらしい」

    「まあ、カール大帝だけ? だけど、彼も行方不明なのよ(But he is missing, too.²)。どうするの?」

    「だから、どうしたもんだろ、ねえ、ロージー?」

    「あたしに聞かないでよ。That’s enough!」

     ロージーはピピンの手を振り払うと、足早に室内に戻ってしまいました。「これから会議、ムニャアの間だから」と後を追うピピンの声が、小さく聞こえました。

    ¹ anyway どっちみち

    ² …, too. ~も


    🐤ブンポウの話 

    【文中の表現】

    A)We have enough budget for that. われわれはそれに充分な予算がある

    B)My English is good enough. わたしの英語は充分上手だ

    C)That’s enough. もう充分だわ⇒もうたくさん

    ●enoughの使い方

    A)名詞の前に置く

    B)形容詞、副詞、動詞の後に置く

    C)単独で使う

  • タイムカマド(第2章7話)

    「ヤッホー、とうとう着いた。朝から丸一日の旅だったね。お前とここに来られただなんて夢のようだ」

     駅を降りてピット城のバルコニーまでは、ホーキでひとっ飛びの距離でした。魔女はホッと一息ついたように、マタタビの紋章が刻まれた白い支柱に、しばらく寄りかかっていました。日が暮れ始めたのか風が出てきて、東の空がバラ色に染まっています。

     「ほら、あそこに見えるだろう(Can you see over there?¹)」と、魔女は遠くを指さしいいました。

    「駅で列をつくっていた観光客が、やっと馬車に乗って登ってくるよ。ここはどこまでも続くなだらかな坂になっていて、人々の憩いの場だ。月初めと年初めには解放されて、王さまのスピーチが聞けるのさ(It’s open on the first day of every month, and on New Year’s Day. We can listen to the King’s speeches here.²)。その時は、ものすごい人の数でごった返す」

    「わかってます(I know.)。ここが、オイラがすべった例のバルコニーっすよね。ほら、水晶をのぞいたときの …」

    「そうだけど、あれは水晶に映ったもんじゃないよ。お前が勝手に夢を見たんだと思うけど」

    「でも、あれは『魔法の水晶』っすよね?」

    魔女はちょっと気まずそうに、視線を右へ左へと泳がせました。

     「いやね、正直いうと、あたしって魔法はたった三つしかできないのさ(Well, to tell you the truth, I can only use three magic abilities.³)」

    「ええ(Really?)。たったの三つ(Only three?)」

    「うん(Yeah.)」と魔女はバツが悪そうに、指を折って説明を始めました。

    「まず一つめが、ホーキに乗る魔法だろ。それから二つめが、大カマドを操作すること(The first one is for riding a broomstick, and the second one is to use the magic cauldrons.)」

    「ほいじゃ、あとの一つは、変身とかっすか(So, what is the last one, shape-shifting?⁴)」

    「まさか(No way!)。それはさ、文房具を出すことなんだ(It is for getting stationery.⁵)」

    「文房具(Stationery?)」

    「ああ、いろいろやってはみたけど、呪文はどれも難しくって。But it’s so easy for me to get stationery by casting a spell. It’s helpful that I don’t need to buy any pens.」

     魔女がパチンと指を鳴らすと、手の中にマジックペンが出てきました。魔女はいきなりネコの頭を両手ではさむと、耳と耳の間をすばやく黒くぬっていきます。

    「何するんすか(What are you doing?)。気は確かっすか(Are you crazy?)」

    「まあ、落ち着いて。いいかい、ここでは、お前は誰も知らないだろうけど、お前を見たら、誰もがプリンス・バーナードだってわかるんだよ。そんなところに、ノコノコこのまま出てったら、どうなると思う? 記憶を失っているネコなんて、王位を継ぐどころか役立たずものとして隅に追いやられる。そして、肝心のお父上ときたら、永遠に行方不明じゃないか」

    「そりゃ、そうっすね(You’re right.)」

     ネコが厳しい顔つきに変わったので、魔女はその額に息をフーッと吹きかけて、最後のペンタッチを済ませました。それから、ポケットをまさぐって木のスプーンを取り出すと、赤い目盛りはだいぶ短くなっています。

    「日没はすぐそこだな(Sunset is just around the corner.)。ここからは、あたしとお前は別行動だ。だいたい清掃員のあたしと、王族のお前がベッタリしてたら、怪しまれるだろう?」

    「清掃員?」

     魔女の首には、いつのまにか城での身分証をあらわすネームカードがかけられていました。カードには「カサンドラ、第一級清掃員(Cassandra, top-class cleaner)」と書かれています。

    「カサンドラ(Cassandra?)」

    「そう、あたしの名前はカサンドラっての(That’s right. My name is Cassandra.)」

     カサンドラが不機嫌そうに足下からホーキを拾って動かすと、それは紙のモップに変わりました。

    「じゃあ、あばよ(So long!)」と、清掃員のカサンドラは大広間へサッサと入っていってしまいました。

    ¹ over there あそこに

    ² listen to ~ ~を聞く

    ³ to tell you the truth 正直いうと 

      only ~ たった~だけ 

    ⁴ So それで

    ⁵ stationery は数えない


    🐤ブンポウの話 

    【文中の表現】

    A)It’s so easy (for me) to get stationery by casting a spell.

     呪文をかけて文房具をだすのって、(あたしにとっては)すごい簡単なんだ

    B)It’s helpful that I don’t need to buy any pens.

     ペンを買う必要がないことは助かってる

    ●Itの用法 (2)

    ◎Itを仮の主語として、結論を先にいうやり方

    A)Itが指すのはto以下

     ㊟ 人柄を表す形容詞の場合forでなくof

      例)It’s kind of you to say so.

    B)Itが指すのはthat以下の文

    👉仮主語Itを使って文をスッキリまとめよう!

  • タイムカマド(第2章6話)

     ネコは列車に揺られながら、車窓を眺めてうっとりとしていました。

     確かにロージーがピピンと結婚することは、バーナードというこの国のプリンスにとっては、ショックなことに違いないのでした。ところが、記憶を失ったただのネコの自分にとって、それはしょせん興味の湧かない誰かのゴシップ記事と同じでした。それより、ネコは目の前の窓ガラスを通してくり広げられる光景に、さっきから度肝を抜かれていたのでした。

     かすんだ地平線からさざ波のように寄せてくる放牧地帯を、雲のすき間から射す光がいくつもの円柱形のライトになって照らしていました。そこには、線路をいけども行けども途切れることなくあらわれる、たくましい羊や牛の姿がありました。

    「こんな国を治められるなんて、何とお父上は恵まれているのだろう。そんな父の息子である自分は光栄すぎて、何度ひざまずいても足りないくらいだ」と、ネコは思いました。そして、いつのまにか「父ちゃん」のことを「お父上」と呼び始めた自分を、不思議にも思うのでした。

     ネコのとなりで魔女ときたら、大いびきをかいて寝ていました。「こんなに疲れているのなら、今晩の偵察はオイラの出番になるだろうな。でも、ここは腕の見せどころだ。オイラの忍びの術がどんなにすごいか見せてやろう」

     ネコが考えをめぐらせていると、コンパートメントのドアが開いて、若い女性が入ってきました。「May I sit here?」と女性に聞かれて、ネコはちょっとあわてながら「Yes, you may.」と答えます。

     驚いたことに、女性は自分から指さしてきた端の席にはすわらずに、ネコのちょうど真向いの席に腰かけました。ネコはますます緊張してきます。

     女性はすらっと背が高く、手足が長くて膝小僧の出る緑色のスーツを着ていました。何かいいたそうで、それでいて、ときに首を傾けて外の景色だけ見ています。

     ネコはふと、英語を使ってみようかと思いました。ちょうど魔女も眠っているのです。間違いをしたからと、笑ったり、とやかくいうものは誰もいません。

    「It’s a lovely day.」

    「Yes, It is.」と、女性は少しほほ笑みました。そして、魔女の寝顔に目をやりながら、「Your friend must be tired.」といいました。

    「(1)Yes, she is asleeping.」とネコがいうと、女性の顔がパッと明るくなりました。

    「Are you going back to the castle?」

    「Back to the castle? No, we are just visiting the Castle.」

    「Visiting?」

    「(2)Yes, we enjoy to see lots of things. (3)I’m exciting.」

     女性はフフッと笑いました。そして「I’m Milly.」といって、ネコに手を差し出しました。

    「My name is Bernard.」と、ネコはミリーと握手しました。

    「What do you do, Bernard?¹」

     ミリーがちょっとからかうように、もったいぶった口調に変わったので、ネコも気取って「(4)Well, I’m spy. I’m investigating. (5)It’s a hard work.」といっておきました。ミリーがプーっと吹き出したので、ネコはあわてていい直します。

    「I’m studying now. I’m a forgetful cat.」

     ミリーは急に黙ってしまいました。少し悲しそうにも見えたので、心配になってネコの方から質問しました。

    「What do you do, Milly?」

    「I’m working at the Tower of Ockham.」

    「The Tower of Ockham?」

    「Actually, it’s a prison.」

    「Crikey!」

     ミリーの顔にまた笑顔が戻ってきました。

    「The building is old and gloomy. There are no tourists, of course. I’m sorry but I have to get off at the next station.² Look, can you see the tower with a flag on top of it? That’s the prison.」

     ミリーは列車が止まると、少しなごり惜しそうにバーナードを振り返り、手を振ってから列車を降りていきました。バーナードがその後ろ姿を見送っていると、ニット帽を目深にかぶった男が、ミリーに追いつかんばかりにプラットフォームを歩いています。男はあんまりかがんで下を向いていたからか、途中で電柱があったのに気がつかず、ゴーンと頭をぶつけてよろけていました。

    ¹ What do you do? 職業は何?

    ² get off 降りる

    上記(1)~(5)の英文には、それぞれ間違いがある。正解は「ブンポウの話」参照。


    🐤ブンポウの話 

    【文中の表現】

    □May I sit here? ここにすわっていいですか?

    □Yes, you may. はい、どうぞ

    ●助動詞 may

    ◎「May I ~?」は「Can I ~ ?」よりフォーマル

    ◎「許可」を表す

    ㊟mayには他にmightと同じ「推量」の意味があった(2-4参照)


    🖊ネコの文法の間違いから学ぼう!

    1) asleep. の間違い (あるいはsleeping)

    2) enjoy seeing の間違い

    3) I’m excited. の間違い

    4) a spy と数える

    5) work は数えない

    《ネコとミリーの会話訳》

    ネコ 「いい天気です」

    ミリー「そうですね」「あなたのお友だち、眠ってますわ」

    ネコ 「はい」

    ミリー「城へ帰るのですか?」

    ネコ 「城へですか? いいえ、城をたずねるとこです」

    ミリー「たずねる?」

    ネコ 「はい、私たちはいろんなモノを見て楽しんでいます。ワクワクしてます」

    ミリー「ミリーといいます」

    ネコ 「バーナードです」

    ミリー「ご職業は?」

    ネコ 「まあ、私はスパイでして。捜査してるんです。大変な仕事です」「私は今勉強しているんです。私は忘れっぽいネコなんです」「ミリーは何の仕事を?」

    ミリー「オッカム塔で働いてます」

    ネコ 「オッカム塔?」

    ミリー「実際、それって刑務所なんです」

    ネコ 「こりゃビックリ」

    ミリー「ビルは古くて暗いんです。もちろん観光客はいません。残念ですけど、次の駅で降りなくては。ほら、てっぺんに旗のある塔が見えますか? あれが刑務所なんです」