Author: boshiyo

  • タイムカマド(第1章6話)

     暑い日が続くようになりました。

     魔女は昼間出かける時は、すべての窓がちゃんと閉まっているか点検してからいくのですが、さすがに外出から戻ると、家の蒸し暑さに耐えられずに、次から次へとすごいスピードで窓を開けていくようになりました。

    「ひょっとすると、この家は外より暑いね」

    「そうっすよ。だから最初っから窓なんて開けっ放しでいいじゃないすか。オイラ、ちゃんと留守番してるし。This summer is hot.なんすよ」

     魔女はあきれてネコを見ると、「それをいうなら、It is so hot this summer.¹だろ?」といい直します。「お前、itは前にいったことを受ける代名詞だけど、天候とかをいうなら、逆にitからいい出していいって教えたじゃないか」

    「そうすっか? とにかくThis summer is hot. This house is hot.」

    「ふーん、お前にいってあったっけ? There is an attic in this house.」

    「ゼアリ?」

     魔女は、台所でコーヒーに大量に氷を投げ込むと、グラスをもったままネコを二階に連れていきました。踊り場の奥にもう一つ螺旋階段があって、それを上ると天井の低い小部屋があるのです。窓もいくつかついていて「There are some windows in this attic.」といいながら、魔女は二つの窓を開けていきました。

     横でネコが突然泣き出しています。

    「どうしたんだい? アッ、あたしのコーヒーの匂いかい?」

    「それもあるんすけど、オイラ、もうダメっす。英語がもうダメなんす」

    「そんなことないよ。お前、よくやってるし …」

    「でも、オイラ懸命に覚えてきました。this, these, that, those, it, theyってね。小さい言葉っすよ。アリみたいに短い。それなのに、何ですそのゼアリっての? もうこれ以上はムリっす。ムリってもんなんす」

     チラリとネコが横を見ると、魔女は下を向いて笑いをこらえているようでした。それから窓わくに腰かけて、満天の夜空を仰いでいるではないですか。

    「ねえ、オイラ、どうして英語やるんすかね?」

    「それはねえ …。それは魚だから」

    「?」

     魔女は、コーヒーの残りを一気に口に流し込むと、氷のかけらを歯でポリポリとかみ砕きながらいいました。

    「わかったよ。これからお前、この部屋を使っていいからさ。This is your attic. This attic is yours. だけど、この窓から落っこちないようにするんだよ」

     窓からの風が、ネコの涙を一気に乾かしてしまいました。

    ¹ so とても


    🐤ブンポウの話

     be動詞に慣れたところで、ここでは少し違った構造をとるbe動詞の構文をひとつ紹介するよ。それが「~がある」という意味を表す「There is/are ~」だ。

     thereという単語は、本来「He is there. (彼はそこにいる)」などと使われるが、この構文はその単語を一番前に出した特殊なもの。覚えるしかない。

    ●「There is ~」と「There are (some)~」

    文中の表現

    □There is an attic in this house. この家には屋根裏部屋がある

    □There are some windows in this attic. この屋根裏部屋には、(いくつかの)窓がある

    ◎単数のときThere is ~, 複数のときThere are (some) ~

    ◎疑問文と否定文では、someはanyになる

    ・Are there any windows in this attic?

    ・There’re not any windows in this attic.

    👉「There are ~」と「They are ~」の発音の違いを意識しよう

  • タイムカマド(第1章5話)

     『わかりすぎるbe動詞』は、素晴らしい冊子だったとネコは思います。これをくり返し音読したことで、相当自信がついたからです。魔女とのレッスンでもいい直されることが少なくなったし、それどころか、ちょっとした発音でさえ「いいね」なんて、感心されたりもするのです。

     ネコはクモのいっていたことは、まんざらウソでもなかったんだと思いました。寝てるばかりの生活をやめて空いた時間に勉強しておけば、言葉の間違いもグンと減ってくるものなのです。「アイツ、何ていってたっけ?『正しい生活と英語は、結構うまくいく』だっけな?」

     ネコは他にも何かテキストがあったなら、こっそり読んだり書いたりする練習を始めておこうと思いました。そこで、通常レッスンに使っているリビングに入ってウロウロしていると、魔女がけげんそうに入ってきました。

    「あのう、英語の本ってあるんっすかね。ちょっと読んでみたくなって」

    「英語の本だって?」と魔女はすっとんきょうな声を上げると、ネコに疑わしそうに「お前、あの水晶が気になるんだろ?」と聞いてきます。

     いわれて初めて、ネコは魔女のリビングに大きな水晶があったことを思い出しました。そういえば、夕べ魔女はそれをのぞき込んで、ゲラゲラ一人笑いをしていたものです。

    「あのねえ、知ってのとおり、あたしは魔女。見えない力をもってるだろ。でもそういう力のないもんがいっくら水晶をのぞいたところで、結局何にも見えないのさ」

     魔女はいたずらっぽく目配せすると、ネコをいつもの階段脇まで連れ戻し、クッションに押し込みました。それから、自分はサッサと裏口からどこかに外出してしまいました。

     ドアが閉まると、ネコはここぞとばかりにリビングに走って戻ります。「見ろっていわれると見たくないけど、見るなといわれると見たくなる …」

     魔女の水晶はタンスの上で、ビロードの布に包まれネコを待っていたかのようでした。布をほどくとピカリと反射して、テーブルに置くと回転してからピタリと止まります。ネコは目を閉じ念を唱えて、水晶をのぞき込んでみました。何も見えないのでもう一度まばたきすると、水晶の奥深くで青と白の点が結びついたようです。

     いつのまにか、ネコは真っ青な晴れた日に、白いバルコニーに立っていました。金のひも飾りが肩についた赤い上着を着て、花のついたベールをかぶった若いネコといっしょに、観衆に手を振っているところです。「バンザーイ、バンザーイ」と歓声が、波のようにこだましました。

     ネコがベールをたぐり寄せると、観衆が急に静まり返りました。どうやらここで、ネコは集まった人たちに向けて、何かスピーチをしなくてはならないようです。「どうしよう。オイラ、この子の名前すら知らない …」

     ネコが焦っていると、ベールのネコが顔を赤らめて「あたしロージー(I’m Rosy.)。あなたの花嫁(I’m your bride.)」と、小声で教えてくれました。「なあんだ、『be動詞』か。カンタン、カンタン」と、ネコは姿勢を正すと片手を上げて、広場のはずれまで届くように声をはり上げました。

     「This is Rosy. He is my bride.」

     広場中にドーッと大爆笑が広がりました。なかにはお腹を抱えながら、バルコニーにいるネコに向かって紙吹雪を投げつけるものまでいます。あたりは大混乱になってきました。

     その時ベールの下から尖った爪がとび出して、ネコは顔をカリッと引っかかれました。「イテッ」と思って目を開けると、そこはリビングのテーブルで、魔女が仁王立ちになってネコを見下ろしています。

     「忘れ物を取りにきたらこの始末か。でも夢でも見られただけお前、結構イケてんのかもよ」


    🐤ブンポウの話 

     前回ネコから説明のあった「be動詞」の表現には、少し慣れたかな?

     ここでは、すでに出てきた「I」や「We」などについて(「人称代名詞」の主格)、ポイントを整理してみよう。

          🔑「I/my/me/mine」表を出して、一番左の「I」の縦項目を参照

    ●人称代名詞(主格)

    ◎意味:「~は」「~が」

    ◎文の(たいてい)最初、主語にあたる部分で使う

    ◎be動詞との組み合わせは、以下の通り

    ・I am ~/私は~ 

    ・You are ~/あなたは~・あなたたちは~ ㊟単数と複数

    ・We are ~/私たちは~

    ・He is ~/彼は~

    ・She is ~/彼女は~

    ・They are ~/彼らは~・それらは~ ㊟複数の「人とモノ」

    ・It is ~/それは~

    ◎二文めからの置き換えで使う「人称代名詞」

    例)Rosy and I are from Canada. Rosy and I are good friends.△

      ⇒Rosy and I are from Canada. We are good friends.〇

    ●Itの表現 (1)

     次のような表現では、人称代名詞の原則に反して「It」が最初から主語になる

    ◎時間      It’s ten o’clock.

    ◎日にち、曜日  It’s May 17.

    ◎距離      It’s a long way from my house to the station.*

    ◎天気      It’s a nice day.

                          *from ~ to … ~から…へ


    Q)どうしてネコは観衆に笑われたのだろう?

    A)「She is ~」というところを「He is ~」といってしまったから

  • タイムカマド(第1章4話)

     「生意気なヤツだな」と、ネコはクモにカチンときていました。「あんな暗いところに隠れているブンザイで、オイラとはり合うどころか、説教までしてくるなんて」

     ネコはクモのことを、いっそ魔女にいいつけてやろうと思いましたが、魔女はいまだに外出から戻っていませんでした。それで、気にしないで流していこうとはするのですが、いわれた四つの文章とクモの発音がいつまでも頭にこびりついて離れません。

     「ひょっとすると、アイツ魔女より上手に英語が話せるんじゃないか?」

    ネコはそう思うといたたまれなくなって、クモが今まで自分のスペースだったという階段脇を調べてみることにしました。

     ある朝、うまいことにクモはまだ眠っているようでした。ネコはおもむろに階段脇をひとまわりしてから、壁際にある背の高い柱時計にやってきました。どう考えても、そこにはめぼしいモノが何もなく、あのときクモが糸を揺らして示していたのは、この柱時計より他ありません。

     時計の黒い分針はカチカチとたくましい音をたてて進んでいました。その下に吊り下がった振り子が重そうに、右に左に揺れています。振り子の奥をのぞいてみると、ちょうど底のところに本が数冊、重ねて置いてありました。

    「なるほど。アイツが『ホン、ホン』いってたわけだ。振り子に隠れて見えなかった」

     ネコがタイトルを見ていくと、すぐにそれは魔女の本だということがわかりました。なぜって『片道世界の地図』だとか『ローストしない料理』なんていう妙なものばかりでしたから。

     ネコはその中から『錬金術と金ののべ棒』という本を取り上げて、中を開けてみました。ホコリがたって、クシャミをすると赤い冊子がパラリと床に落ちてきます。

     どこからともなく風が吹き込み、冊子の表紙をめくってくれました。「『わかりすぎるbe動詞』ハンフリー・アレオパギタ著?」

     風がまた、次のページをめくりました。

       「『be動詞』は、たったの三つ、am, is そして are である」

     「ええっ? たったこれだけ? これってメモ帳だったのかな? それにしては、紙がひどいシミだらけだ」

     首をかしげているネコに、おかまいなしに風がまたページをめくりました。

       「諸君、ためらわずに次の文章を読み上げよ」

        I am Humphrey Areopagita.

        Your name is Bernard.

        We are in Pip Castle.¹

     ネコはこの時ほど、それまでの魔女の厳しいレッスンを、ありがたく思ったことはありませんでした。なぜって意味こそわからないけれど、アルファベットならかなり読めるようになっていたからです。

     またたくまに、次のページ。

       「『be動詞』の文章は、三つの部分から成り立っている。

        前のページの文章を、三つの部分に分けてみよ。

        ヒント:be動詞は、いわば『糊』である」

     ネコがページを読み終わるやいなや、風は反対側のページに吹き込んで、前のページをもう一度見せてくれました。「うーん、be動詞が『糊』ならば、くっつく前に『糊』の前と後ろとに離しとけばいいのかな?」

     ネコは、次のように英文を区切ってみました。

       I/am/Humphrey Areopagita.

       Your name/is/Bernard.

       We/are/in Pip Castle.

     風が一、二とページを進めると、「あなたは、天才」と書いてありました。

    そして、冊子はもう最後のページです。

     「あなたのために私は懇切丁寧、三つの文章を否定文、疑問文とその答えとに書き換えておいた。目を見開いてよく考えれば、書き換えの法則は自分で発見できるもの」

     ネコは次のページ一いっぱいにぎっしり書かれた文字を見て、正直うんざりしました。それでも、時計を見るときっかり十一時になるまでに、まだ時間があります。

    「この時計はちょうどの時刻に、やたらうるさい鐘を打つんだっけ。そしたら、またあのクモが起きてくるかもしれないし …」

    ネコはなんとかがんばって、時間までに英文を読み終えてしまうことにしました。

    ¹ in ~ ~の中に


    ネコの説明

     というわけで、この冊子の最後のページに書かれた文を、全部間違わないようにここに書き写し、おまけに訳もつけておいたよ。

     書きながらわかったことは、「be動詞」の否定文は、動詞の後に「not」を入れるだけ、疑問文は「be動詞」を前に出して、最後に「?」を忘れずつけることだ。

     難しいのは答え方だと思う。なぜって同じ単語をくり返さずに「it」なんていう違う単語に変えてるところがあるからね。

    □I am Humphrey Areopagita.

     私はハンフリー・アレオパギタだ

    □I am not Humphrey Areopagita.

     私は…….ではない

    □Am I Humphrey Areopagita?

     私は…….なのか?

     Yes, I am./No, I’m not.

     はい、そうだ/いいえ、そうではない

    □Your name is Bernard.

     あなたの名前は、バーナードだ

    □Your name is not Bernard.

     あなたの名前は…….ではない

    □Is your name Bernard?

     あなたの名前は…….なのか?

     Yes, it is./No, it’s not.*

     はい、そうだ/いいえ、そうではない

    □We are in Pip Castle.

     私たちは、ピップ城にいる

    □We are not in Pip Castle.

     私たちは…….にいない

    □Are we in Pip Castle?

     私たちは…….にいるのか?

     Yes, we are./No, we’re not.

     はい、そうだ/いいえ、そうではない

    ㊟*「it」はmy nameを指す(詳しくは1-5参照)

    👉be動詞は肯定・否定文ともに表記の仕方がたくさんある。自分の書きやすいもので統一しよう!(You are/You’re, You’re not/You aren’t …)

  • タイムカマド(第1章3話)

     ネコは、魔女のレッスンが好きか嫌いか聞かれたら、嫌いな方だと答えると思うのです。魔女は急に大きな声を出すし、ネコが発音してるそばから、かぶせるようにいい直したりもするのです。おまけに、何度も何度も同じ単語をくり返しいわせるのが、しつこいったらありません。

     それでも何となく合わせているのは、少なくとも魔女が外出しさえすれば、ネコがこの家の主人になったかのように、悠々自適に足を伸ばしていられるからです。「『生きることは、ゆったりすること』っていってね。あの魔女にはオイラの方針がわかってないらしい …」

     そんなある日、魔女はネコを玄関先に呼びつけるといいました。

    「本当に申しわけないんだけど、あたし、ちょっと遠出しなくちゃならなくてね。だけど、お前、だいじょうぶかい?」

    「留守番てことっすか? はあ、何とかやってみるっすよ」

     ネコは内心「願ってもない」と思いましたが、もったいぶってそう答えました。魔女は姿見の前に立ってマントのすそをチェックしたり、帽子の位置を直したりしながら、ネコに何度もいい聞かせます。

    「いいかい、誰が来ようがドアを開けちゃダメだよ。それから、小さい窓だって開けるんじゃないよ。庭にだって出るんじゃないよ。どこへもいくんじゃないよ」

     ネコがとりあえずうなずいておくと、魔女は台所の裏口へまわって、やっとそこから出ていきました。

     ネコはバンザーイと跳び上がると、さっそくクッションに横たわりました。久しぶりに指の間まで伸ばしてみると、大きなあくびが出てきて、ウツラウツラと眠くなってきます。すると、ネコの鼻先に天井からクモの糸が一本、ツーッと下りてきました。

    「気になりますわね、怠けものさん」

    「?」

    「ゆったりするのはいいけれど、『正しい生活と言葉の正確な使用とは影響し合う』っていい伝え、ご存知でしょう?」

    「なんすか、それ?」

    「あきれた! あなたがここに来たのはたぶん、英語を学ぶためなんでしょう? だったらシャキッとしてないと、身につくものも身につきませんわ」

     クモは八本の足を動かして、自分の糸を大きく揺らしていきました。揺れる方向には壁ぎわに背の高い柱時計があるだけです。

    「ほらね、ほらほら、ここに何があるかなんて、あたくし誰よりわかっておりますのよ。この階段脇は今までわたくしだけのスペースでした。なのに、あなたが乗り込んでくるから …」

     ネコに捕まえられるとでも思ったのか、クモはスルスル糸をたどって迷路のような巣の中に戻ってしまいました。そして、待っていた子どもたちに次々とハイタッチすると、びっくりするほど上品な発音で、四つの文をいったのです。

          This is my web.

          These are my babies.

          That is your cushion.

          Those are your books.

     「わたくし子育て、あなたはお勉強。これからはお互いやるべきことをやって、少なくともこの階段脇では干渉しないようにいたしましょうよ」


    🐤ブンポウの話 

     以下の四つの単語は、モノを指すのに使う指示代名詞だ。

     やっかいなのは、モノの数が「単数」か「複数」か、そして自分から「近くにある」のか「遠くにある」のかで使う表現が変わるところだ。

     テーブルの四つの角にモノを置いて、指さしながらスラスラいえるまで練習しよう。

    ●This/These/That/Those

    文中の表現

    □This is my web. これは、私の巣です(近く・単数)

    □These are my babies. これらは、私の赤ちゃんです(近く・複数)

    □That is your cushion. あれは、あなたのクッションです(遠く・単数)

    □Those are your books. あれらは、あなたの本です(遠く・複数)

    ㊟上記表現は、人を紹介するときも使う

    (ただし、人は指でなく手の平で指すようにしよう)

    👉単数は「is」複数は「are」という単語と結びつくことにも注目しよう!

    🖊myとmine

    ◎上記英文は「~のもの」という単語を使って、次のようにも書き換えられる

    ・This is my web. ⇒This web is mine. 私のモノ

    ・These are my babies. ⇒These babies are mine.

    ・That is your cushion. ⇒That cushion is yours. あなたのモノ

    ・Those are your books. ⇒Those books are yours.

    🔑「I/my/me/mine」の表を手元に置くと、左から二つめ縦項目が「~の」、四つめの縦項目部分が、一語で「~のもの」という意味

  • タイムカマド(第1章2話)

     魔女のレッスンは、一から百まで英語で数えるところから始まります。それから、カレンダーを出してくると、曜日と月の単語をネコにリピートさせるのです。さんざんアゴが疲れてきたら、今度は魔女がアルファベットを歌うように読み上げてくれるのですが、耳をふさぎたくなるほど魔女は音痴でした。

     その後、魔女はひとりでしゃべっています。何をいっているのかネコにはまるでわからないのですが、たぶん季節や天気の話じゃないかと思います。暑そうにしたり、寒そうにしたり、魔女はジェスチャーをしてくれるのでね。

     魔女の声を聞きながら、ネコは違うことを考えています。「雨が降るとあの橋の下で隠れていたなあ」とか、「寒い冬の日に、学校帰りの子どものマフラーにちょっかい出して、追いかけられたこともあったっけ」なんて、野良だった頃のことを思い出したりしているのです。

     ボーとしているネコに気づいたのか、魔女は急に立ち上がりました。そして、奇妙な呪文を復唱させます。「I, my, me, mine, you, your, you, yours …」。唱えても唱えても、虫一匹出てこない呪文なのに、魔女の顔はけっこう真剣です。

     フーッとため息をついてから、次は部屋にあるモノの指さし点検に移りました。ソファ(a sofa)、テーブル(a table)、鏡(a mirror)、水晶(a crystal ball)、タロットカード(tarot cards)に、十二個の香水びん(twelve perfume bottles)。

     「そうそう、もう数をいちいち数えるのはやめにして、some windowsといっておこうか。それに香水びんもa lot of perfume bottlesでいいよ」と、魔女が優しく教えてくれたので、ネコはうれしくなりました。ところが、テーブルのリンゴを「a apple」というと、魔女は首を横に振って、「an appleだよ。その方がいいやすい。その眼鏡はa pair of glasses」と不機嫌そうにいいはってます。

     鼻や耳、肩や足とお互いの体の部分も数えた後は、さすがに休憩タイムです。魔女は台所から自分とネコに、コーヒー(two cups of coffee)をもってきてくれました。ネコはもうその匂いからして、逃げ出したくなるほど嫌いになっているのですが、お礼はいうことにしています。「ありがとうごじぇえますだ」

     魔女はじっとネコを見つめてきました。いよいよレッスンの終わりにきまって聞かれる二つの質問の時間です。

    「ワッチァネーム? ウェアユフロ?」

     ネコは何もわからないので、気まずい時間が流れます。それでもじっと魔女を見返すようにはしているのです。アイコンタクトは大切だといわれているのでね。それにどっちにしろ、レッスンはいつもそのまま終わるのです。

     ある日、あまりに沈黙が続くので、ネコは「あのお、オイラちょっと腹減ったんすが」と、おそるおそるいってみました。すると、魔女はうっぷして、テーブルに二回も頭をぶつけていました。


    🐤ブンポウの話  

     すべてのモノを、いつも正確な数で表していくのには無理があるよね。そこで「いくつかの」と「たくさんの」という便利な二つの表現を覚えてしまおう。

    ●「some ~」と「a lot of ~(lots of ~)」

    文中の表現

    □some windows いくつか(2~3個)の窓

    □a lot of perfume bottles たくさんの香水びん

     ㊟上記二つは「数えられる」「数えられない」単語どちらにでも使える 

     例)some water/a lot of money


    Q)どうして魔女は「a pair of glasses」といいはったのだろう?

    A)「a pairのa」に気を取られて眼鏡のレンズの数(2個)を数えるのを忘れて欲しくなかったから(a pair of glass ✕)

    🔑魔女のレッスンでやっていた「I/my/me/mine」の表をつくっておこう!

  • タイムカマド(第1章1話)

     暗闇の中で、ネコはやっと目を覚ましました。

     身体を横たえたまま天井だけ見つめていると、日中起こったことがだんだんとよみがえってきます。

    「まずは、オイラ腹が減ってたんだよな。そいで、魚の匂いがするタンポポがオイラに命令してきた。いわれたとおり角を曲がると誰かの家で、ドアを開けてくれたのが魔女だったっけ」

     ネコは、怖いのか優しいのかわからない魔女から、その時いわれた言葉を思い出して、おかしさがこみあげてきました。

    「あの魔女は、これからいっしょに英語を学んでいくんだっていってた。それも必死に。一体どこのネコが必死に英語なんか勉強しますかってんだ」

     ネコがとりあえず起き上がろうとすると、すぐそばで柱時計が鐘を鳴らし出しました。「一、二、三 … 十三回?」ネコの全身の毛がツーンと立ち上がります。

    「待てよ。ここはやっぱり魔女の家だ。だって寝る前にあの部屋で、魔女が極上の魚をオイラに食べさせてくれたんだもの」

     明かりがもれてくるその部屋を、ネコがそっとのぞいてみると、あの魔女がコーヒーを入れているところでした。魔女はマントをはおっていないせいか、昼間と違ってどこにでもいるただの人間のように見えます。

    「おやまあ、まさかお前、コーヒーを飲みたいなんていうんじゃないだろうね」

     魔女はネコに気がつくと、手にしたポットを振り回してたずねました。その拍子に、テーブルに置いてあった青い缶にぶつかって、中から茶色いコーヒー豆がザラリと流れてきます。

     魔女はうれしそうにその一粒をつまんでみせると、ネコを見ながらいいました。

    「いいかい、さっそくレッスン開始だ。まずはどんなものでも数を数える。これが英語の基本だからさ」

     魔女は「a coffee bean」と「a」を強調してはっきりといい切りました。そして、今度は手のひらにもう一粒の豆をたすと、「two coffee beans」と今度は「s」を強調して数えていきます。

     ネコもみよう見まねで、いわれるままにコーヒー豆を数えていきました。すると、魔女は飲んでいた自分のコーヒーを突然指さし、「これは?」と聞いてきます。ネコが「a coffee」と答えると、魔女はテーブルをバタンとたたき「a cup of coffee」と甲高い声をはり上げました。とたんに、ネコは自分の白い手をカップの中に入れてしまい、熱くてギャインと跳び上がりました。

     レッスンはこうして騒がしく続いていきました。おかげで夜が明ける頃には、ネコはたいそうなめらかに、英語が口をついて出るようになりました。それでも手足についたコーヒーの匂いには耐えきれず、その日はまた朝から爆睡するしかありませんでした。


    🐤ブンポウの話 

     ボクはブンポウ。これからザックリとブンポウの話をしていくよ。

     魔女がネコにコーヒー豆を数えさせたように、英語の世界ではモノを数でとらえる感覚を磨くことが重要だ。

    ●モノの数え方

    1)「数えられるモノ」の数え方

    ①一個なら単語の前に a/anを置く

     ⇒a/e/i/o/uの母音で始まる単語は、aよりanを置こう

     例)an apple, an orange … ←発音しやすいから

    ②二個以上なら単語の終わりに -sをつける(㊟-sのつけ方に例外あり)

    ③単数と複数で単語自体が変わるものがある

     例)a child⇒two children, a woman⇒three women, …

    2)「数えられないモノ」

    ①そのまま使う

    ②容器に入れるなどして、さまざまな数え方をする

     例)a cup of coffee, a bottle of water, a piece of music, a game of tennis, …

    👉「数えられないモノ」でも、それで終わりにしないで何とか数えようとしているところに注目しよう!


    文法事項の参考文献

    Murphy R. (2015). Essential Grammar in Use. Cambridge University Press.

    英語監修:J. J. M. Queen